〜最後に

Ver1.0とVer2.0の違いについて■

これまで様々なサイトを立ち上げてきた私だが、今回の『ネイティブ・サン Ver2.0』ほど苦しい作業はなかった。途中で何度書くのをやめようと思ったか知れない。
何せ20年以上も前に解散したバンドの事を、いい歳こいた中年が何か書こうというのである。しかも2度までもだ。
「今さらもう、ネイティブ・サンでもなかろう」という周囲の気分と雰囲気は、筆者が一番よく知っている。

そんな止まりそうな筆を1歩1歩進めさせたのは「存命して音楽活動を続けているネイティブ・サンのオリジナル・メンバーは、もう峰 厚介と村上 寛しかいない」ということ、そして不思議な縁で、自分が彼らのサイトを担当しているという事実だった。もし、いま私がネイティブ・サンについて何か書かなければ、その機会は永久に失われてしまうのではないか、という危惧があった。

『ネイティブ・サン Ver1.0』と『ネイティブ・サン Ver2.0』を両方読まれた方は、その内容・文体の違いに驚かれるかも知れない。『Ver1.0』と『Ver2.0』はいわば陽と陰、ネガとポジという関係であり、またネイティブ・サンというバンドに対する評価も大甘・大辛と著しく分かれている。
これは筆者が意識的にやったことだ。
前編『ネイティブ・サン Ver1.0』では、人気絶頂時だったバンド結成時の前期を中心に取り上げ、反対に後編『ネイティブ・サン Ver2.0』では、いわば凋落時代ともいえる中期から解散までを描いた。こうしたバンドの負の部分にスポットを当てることで、ネイティブ・サンの全体像を照らし出そうとしたのだ。
20年以上も前に解散し、今では話題に上ることもなくなったバンドについて、新たに何か書くとすれば、こういう方法しかなかった。

『ネイティブ・サン Ver2.0』では一部、バンドやそのメンバーについてかなり厳しい文章も書いている。もちろん悪意はないし、自分としては努めて冷静に書いたつもりだ。
しかし、ファンの皆様の中には、もしかしたら不愉快な思いで読まれた方もいるかも知れない。そういう方は遠慮せずに、どんどんメールで直接私に意見を書いて送って頂けるとうれしい。私としては精一杯の対応をさせて頂く。

また『ネイティブ・サン Ver2.0』では、これまでの私の文章の特徴でもあった”お笑い”の部分を、極力排除してある。
これはネイティブ・サンというバンドについて、真面目に真摯に書きたいという気持ちがあった反面、個人的な話で恐縮だが筆者ももう40才代後半、あの手のお笑い文章を書くのに、もう疲れちゃったーというのが偽らざる心境である。

     
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■懐かしき日々、青春への惜別■

この『ネイティブ・サン Ver2.0』に通底しているテーマは「あの時代」に対する惜別だ。
70年代後半から80年代前半にネイティブ・サンを聴いて青春を過ごし、彼らの奏でる音楽に自分のこれからの人生に大きな夢を掻き立てられた若者は多かったに違いない。もちろん私も、当時その一人だったのは言うまでもない。

しかし確実に歳月は流れた。
ネイティブ・サンの実質的なリーダーだった本田 竹広の死によって、もう「あの時代」は永久に還ってこないということを再確認しなければならなくなったという事実。その事実は重く大きい。

私はこの『ネイティブ・サン Ver2.0』を書くことで、自分自身の青春時代に「けじめ」をつけたかったのかも知れない。
いや、もしかしたらそれこそが『ネイティブ・サン Ver2.0』を書こうとした、大きな動機だったのだと脱稿した今、強く思う。
ネイティブ・サンについて書くということは、同時に自身の青春を振り返ることでもあった。そして青春時代を再確認することは、これからの人生「中年時代」「老年時代」を構築する一助にもなることになるかも知れないとも考える。
だから『ネイティブ・サン Ver2.0』を書いている最中は、いつも自分が若かった頃の気分を思い出しながらパソコンに向かった。

今回、特別企画の「付録」として、末章に書かれている「新宿:歌舞伎町『カーニバル』の想い出」は当初予定していた原稿量を大幅にオーバーし、3部構成となる大作?となった。
ネイティブ・サンとは直接関係ないエピソードだが、こんな昔話を書くきっかけが生まれたというのも、何かのお導きかも知れない。
私にとっては思い出すのがシンドイ話ばかりだし、二度とあの頃には戻りたいとは思わないが、気分ばかりが空回りしてじたばたしていた「青春時代の愚行」の数々が、なぜか今では懐かしいものにも感じられる。

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最後に■

考えてみれば当時、ネイティブ・サンを聴いて熱狂していたリスナーも今や40才代、50才代。社会人として、それぞれの業界の中で重鎮として活躍している方ばかりだろう。自分の将来に何がしかの夢があった若い頃は既に過ぎ、この底なしの不景気な世情のなかで、四苦八苦しているというのが現状ではなかろうか。

だが遠い昔、輝ける時間はネイティブ・サンのメンバーにとっても、そして数多くのリスナーにとっても確かに存在したのだ。
その輝ける時間は幻灯のように遥か遠くで瞬き、あやふやで頼りない、小さなものだったかも知れない。しかし音楽に狂おしいばかりに身を焦がし、胸には張り裂そうなほどの夢を湛えていた「あの時代」は確実にあった。
ネイティブ・サンの音楽は、たとえミュージシャンが亡くなっても、様々な人たちの良き想い出となって心に生き続けることだろう。

さて『ネイティブ・サン Ver1.0』、『ネイティブ・サン Ver2.0』と続き、将来はたして『ネイティブ・サン Ver3.0』は登場するのか。
それは「いまのところ」まったく予定していない。