〜ネイティブ・サン 最後のステージ(4)〜



■ネイティブ・サンのラスト・アルバムは?■

ネイティブ・サンのラスト・アルバムは、1987年の『AGUNCHA』である。
別章にも書いてあるように、そのジャケットには「Takehiro Honda&Native Son」とバンド名がクレジットされている。
だが、すでに本田 竹広は『AGUNCHA』のリリース前後から、このアルバムとほぼ同じレコーディング・メンバーによる「本田 竹曠&ビッグ・ファン」というバンド名で、ライブ活動を開始していた。
だから、この『AGUNCHA』にクレジットされている「Takehiro Honda&Native Son」は、もしかしたら「Takehiro Honda&Big Fun」となっていたかも知れない。しかし、敢えてネイティブ・サンの名前を出したのは、やはり知名度という営業上のメリットを考えたからだろう。

『AGUNCHA』の前作『VEER』も、音楽的にはほぼ同じ内容ということから考えて、正確にいえばネイティブ・サンのラスト・アルバムは峰 厚介が参加し、バンドのサウンドの匂いがまだ微かに残っている『DAY BREAK』を、敢えて挙げても構わないのかも知れない。

だが、今となってはネイティブ・サンのラスト・アルバムが『AGUNCHA』であれ、『DAY BREAK』であれ、さして大した重要な問題ではないことのように思える。

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■夢のライブ・レコーディング・アルバム『Native Son Last Live in JIROKICHI』■

さて、ここから本題に入ろう。
ネイティブ・サンの歴史を振り返り、このバンドのカラーをよくよくと鑑みれば、やはりネイティブ・サンのラスト・アルバムはライブ・レコーディング作品で締めてほしかった−と強く思うのである。

本田 竹広が病魔から復帰した1999年から2000年までの間に合計3回、高円寺のライブハウス「JIROKICHI」では『ネイティブ・サンの同窓会ライブ』が開催された。これらの音源は「門外不出のもの」として今も筆者の手元にあるが、まさに名演揃いの駄曲なし、「これぞ、ネイティブ・サン!」ともいうべき最高のパフォーマンスがもれなく収録され、筆者もこの演奏を前にして、ただただ感嘆するしかない。
こうした素晴しい音源が隠れるようにして世から埋もれ、『CARNIVAL〜Live at Montreux』や『CROSSOVER JAPAN'05』といった、ボルテージの低い作品が堂々とオフィシャル化されて、まかり通っている現実を前に、忸怩(じくじ)たる思いを感じずにはいられない。

そこで今となっては幻となり、この世には存在しない「ネイティブ・サンのラスト・ライブ・レコーディング」に夢を馳せてみよう。
ネイティブ・サン活動の末期である1987年にタイムスリップ、自分をバンドのアルバム制作プロデュサーと化し、ラスト作品に収録する曲をいろいろと考えてみる−という趣向だ。
「世のなか、暇なヤツがいるものだ」と呆れる方もいるかも知れないが、ここは筆者の想像の世界にお付き合いいただこう。

ライブ・レコーディングが行われる会場は、もちろん高円寺の「JIROKICHI」以外にはない。ネイティブ・サンは、この「JIROKICHI」で音楽的な試行錯誤を繰り返しながら誕生したグループであり、バンドにとっては特別な場所なのだ。ラスト・アルバムの録音場所として、これ以上の会場は考えられないだろう。

ネイティブ・サンの最後のアルバム名は、もうこれしかない。
『Native Son Last Live in JIROKICHI』。CDの体裁は『COAST TO COAST』に倣って、豪華2枚組といこう。
CDの1枚目はバンドの前期を中心とした曲を、またCD2枚目は主に「中期」と「後期」からのセレクトとする。
筆者が考えた収録曲は以下の通り。


アルバム・タイトル: 『Native Son Last Live in JIROKICHI』

<Disk:1>
1. Bump Crusing
2. Bay Street Talkin'
3. Animal Market
4. Wind Surfing
5. Whispering Eyes
6. Savanna Hot-Line


<Disk:2>
1. Nite of Limbo
2. Daybreak
3. Go For It
4. Autumn Dreams
5. Super Safari
6. Encore〜Isn't She Lovely:Theme(Fade-out)

【メンバー】Disk 1
本田 竹広(Key,perc)、峰厚介(ts,ss)、
大出元信(el-g)、川端民生(el-b)、村上寛(ds)
【メンバー】Disk 2
本田 竹広(Key,perc)、峰厚介(ts,ss)、
大出元信(el-g)、米木 康志(b)、本田 珠也(ds)
※(4)〜(6) 福村 博(tb) 参加
〔レコーディング・データ〕
録音日時:1987年某日 / 録音場所:高円寺「JIROKICHI」にて収録


本当は「Sexy Lady」、「Wind Jammer」、「Red Eye Express」、「Orbit」、「Lasting love」なども入れたかったのだが、切りがなくなるので泣く泣くカット。テンポが速い遅いといった曲の雰囲気も考えて、以上の選曲となった。
ネイティブ・サンのライブでは、いつもS・ワンダー「Isn't She Lovely」のアンコールで終了していたが、ここではテーマのみの収録。だんだんフェード・アウトしてパーティ気分の余韻を残しつつ、アルバムを終えるという趣向である。

メンバーはDiskTがオリジナル・メンバー全員集合、DiskUはリズム・セクションのみ、米木 康志(b)、本田 珠也(ds)にチェンジとなる。
ここで問題になるのが、トロンボーンの福村 博の存在だ。
晩年に行われたネイティブ・サンの復活ライブでは、必ず福村 博がオリジナル・メンバーとして参加していたから、本田 竹広も福村 博をバンドの正式なメンバーとして認知していたのだろう。しかし、このアルバムでは基本的に不参加とさせて頂く。

福村 博のプレイ自体は悪くはないのだが、やはりトロンボーンという楽器は、このバンドには不必要と筆者は思うからだ。
でも、それでは村上 寛と並んで、もう一人のヒロシさんである福村 博が、あまりにも可哀相だ。
そこでセカンド・セットの後半部、「Autumn Dreams」から、ゲストとして参加して頂こう。
「Autumn Dreams」はテレビ番組の主題歌にも採用されたネイティブ・サンのヒット曲のひとつであり、福村 博が書いた代表曲だから、誰も文句は言わないだろう。堂々としたソロを披露してライブを盛り上げてほしい。

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■刻印されず空中に消えた音の行方■

というわけでネイティブ・サン、幻のラスト・レコーディング・ライブ作品は、ここに完成したというわけだ。
こんな、この世に存在しないアルバムのことを、あれこれ想像する−というのもナンセンスなことだというのは重々、筆者も承知しているが、「自分の贔屓(ひいき)のバンドの好きな曲が、あのアルバムに収録されていたら」−と考えるのはファンにとっては自然なことだから、ここはひとつ読者の方にはお許し願おうと思う。

ともあれ、ネイティブ・サンはライブ・バンドでありながら、遂に最高のパフォーマンスを収録したライブ・アルバムを残さないまま、中途半端に終わったかのようにみえる。
ライブでの素晴らしい音の数々は、作品としてはほとんど刻印されず、全て空中に消えてしまって、いまでは跡形もない。
残っている音源は、熱心なファンが、こっそりとライブハウスなどの片隅で録音したテープやMDにしか存在しないのかも知れない。

だが、こうしたどうしようもない不器用さと計算のなさ、そして不運な部分が、逆に愛すべきネイティブ・サンらしいな−と思ったりするのだ。


 〜新宿:歌舞伎町「カーニバル」の想い出(その1)へ続く