〜検証:ネイティブ・サン(2)〜



■ネイティブ・サン結成への出発点?■

ここに2枚のアルバムがある。
1枚は1976年にリリースされた峰 厚介『Sunshower』、もう1枚は1978年リリースの本田 竹広『I’ts Great Outside』。
この2枚は今では「ネイティブ・サン結成への出発点となったアルバム」とファン・識者に評価されている。

しかし、これらの作品ははっきり言ってネイティブ・サンとは別物のサウンドだ。
何故ならネイティブ・サンはジャズ・フュージョンを基調としつつ、サンバ、ファンク、レゲエ、ポップスと他のジャンルをうまく組み合わせた、ワールド・ワイドな視点に立ったバンドだったのに対し、この2枚のアルバムに収められたサウンドは、ある意味で純粋なフュージョン・ミュージックだからである。

..........
    ▲峰 厚介『Sunshower』             ▲本田 竹広『I’ts Great Outside』

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

■峰 厚介『Sunshower』について■

まず峰 厚介『Sunshower』から聴いてみよう。
タイトル曲の「Sunshower」は『ネイティブ・サン Ver1.0』にも詳しく書かれている通り、ネイティブ・サンの初期重要レパートリーだった「 Animal Market」の元となった曲。しかしここには「 Animal Market」の面影はほとんどない。
冒頭から峰 厚介のエレクトリック・サックスが延々と続く。曲にもテーマらしきものはなく、本当に峰さんのワ〜ンワ〜ンとしたサックスがどこまでもどこまでも続くのみ。
周到なアレンジを施した形跡がほとんど見当たらないため、聴いていてどうしても散漫な印象を受けてしまう。

おそらく峰 厚介は「Sunshower」で菊地 雅章バンドでの「Dancing mist」を、そして「アイ・ノウ・ホェア・ユー・カム・フロム」では同バンドでの「イエロー・カーカス・イン・ザ・ブルー」を狙ったのかも知れない。確かに菊地 雅章バンドでの同曲は「延々と続く」ものではあった。

だからだろうか。このアルバム、1曲1曲があまりに長く感じられる。
『Sunshower』には書き下ろしが4曲収められている。1枚のアルバムに4曲収録というのはジャズ作品としてはごく普通ともいえるし、コルトレーンのようにA面1曲、B面1曲という長時間演奏も珍しくはない。
しかし先に述べたように綿密なアレンジがほとんどされていないため、アルバム全体が一本調子で緩急が乏しく、全曲を通して聴くのがしんどく感じられてしまう。
ただでさえジャズ・ファンはクラシック・ファンと違って「長い曲を聴く」というのに慣れていないから、リスナーは途中で思わずレコード針を上げて聴くのを中断したくなってしまうのだ。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

■本田 竹広『I’ts Great Outside』について■

さて、もう1枚の本田 竹広『I’ts Great Outside』。
このアルバムは本田さん、ニューヨークに飛んでのレコーディング。しかも音楽プロデューサーとしてギタリストの増尾 好秋を招き、本田 竹広にとっては初の本格的なフュージョン・アルバムとなる。
メンバーも現地の”ファースト・コール”を集めて、さぞやエキサイティングな演奏が−と思うと、これが肩透かしを食ってしまう。これが「本田さんか?」と疑問符がつくほど大人しいというか、お行儀の良い内容なのである。
いつもの本田 竹広のアルバムにある激しさは影を潜め、サウンドの仕上がりもジェントリー&マイルド。
これはひょっとしたらこのアルバムで音楽プロデューサーを担当している増尾 好秋の意向も反映されていたのかも知れないが、あまりにもお利口さん過ぎるというかキレイ過ぎるというか、もっと羽目をはずしたところがあっても良かったのにと思う。

こういうソフトなサウンドの仕上がりになったのは本田さん、あまりにこのアルバムでエレクトリック関係のピアノに偏り過ぎたことが原因のひとつかも知れない。実際、裏ジャケットを見るとアコースティック・ピアノの他にフェンダー、クラビネット、ハモンドB-3オルガンと様々。これにコーネル・ジュプリーと増尾 好秋の2本のギターが加わるのだから、どうしてもキーボードが思いっきり暴れるのは無理。
本田さんの場合、アコースティックとエレクトリッの割合は半分づつ、アコースティックでは指を引き千切らんばかりに鍵盤を叩きつけ、エレクトリックでは胸を掻きむしる切ないフレーズを連発するというのが正しい弾き方なのだ。
だからこのアルバムの出来上がりは別にしても、こと本田さんのプレイに関しては不満が残ってしまう。

そしてこれを読んでいる賢明な読者はすでに御明察だろう。
この峰 厚介『Sunshower』と、本田 竹広『I’ts Great Outside』の持つ欠点、問題点、反省点をすべてカバーし、理想的なかたちでひとつのバンドとしての完成度を集約したのがネイティブ・サンというわけだ。

やはりこの頃の峰 厚介には本田 竹広のアレンジと作曲能力が、また本田 竹広には峰 厚介のサックスがどうしても必要だったのだ。

   。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

■ネイティブ・サン誕生の必然性■

もしネイティブ・サン結成以前に、ネイティブ・サンの萌芽のようなものが見てとれる作品があるとしたら、それは1977年にリリースされた『LIVE UNDER THE SKY '77〜Jazz Of Japan All Stars』かも知れない。

このアルバムの、レコードでいえばA面に収録されている峰 厚介バンド「Orange Sunshine」に本田 竹広が加われば、また本田 竹広バンドによる「Spirits flow」に峰 厚介が加われば、そのままネイティブ・サンが出来上がる。

ネイティブ・サンが結成された背景には、やはり当時のフュージョン・ブームといった時代の波があったからに他ならないが、峰 厚介『Sunshower』と本田 竹広『I’ts Great Outside』の2枚に耳を通せば、二人の傑出したジャズ・ミュージシャンが合体したバンドの誕生は必然的なものだったのだと、あらためて強く思う。


                            以下、〜検証:ネイティブ・サン(3)〜へ続く