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ケイ 赤城 インタビュー 〜自己の音楽観について〜


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私の手のサイズはアメリカのジャズ・ピアニストの基準からみると、とても小さい方です。それで随分苦労するんですよ。
と言いますのは昔のジャズ・ピアニストを遡って見てみても、手の拡がりを充分に生かしたサウンドというのがジャズの基本的なサウンドになっていますよね。ですから私のように手が小さいピアニストがそういったサウンドを出そうと思ったら、様々な工夫をせざるを得ない。

私もいろいろ試行錯誤していますが、たとえば和音を弾くときに本来ならば一番外側にあるべき音を中側に持ち込んだりという風な事を私の場合しています。その他にも音の幅や音量、タッチの強さ・弱さといった音色、そういった微妙な音のニュアンスで勝負するという方法もあります。

自分の作曲に関して言えば、1時間くらいで書き上げてしまうものもあれば、小さなアイディアを10年間膨らませてやっと一曲出来上がったという風なものまで様々です。
たとえば私のアルバム『ミラ−・パズル』に入っている「バーチャル・ドライブ・バイ」という曲は、小さなモチーフを膨らませて出来上がるまでに4年間掛かっています。

作曲する上で大事なのは、「自分のアイディアをいかに相手にクリアに伝えるか」という事ではないかと思います。そういう意味で作曲は、文章を書くという作業にとても似ていますね。逆にいえば、自分のアイディアがはっきりしていなかったら出来上がった曲も漠然としたものになるということです。

ただし、私は最初から「曲を通してこういうことを伝えたい」という風なことは全然思わないんです。曲のムードと、曲のメッセージ性といったものはまったく別ですから。

私の場合、曲を書き上げてから一年くらい演奏して、それからやっとタイトルがつくのです。
繰り返し演奏していくうちに、どんどん自分の中で曲のイメージが鮮明になっていく・・・。
私の場合、そういったプロセスで出来上がっていく曲が多いですね。

マイルス・バンドにいた頃は、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーも随分プレイしましたが、彼のバンドを辞めてからはアコースティック・ピアノしか弾いていません。
ジャズ関係でエレクトリック・ピアノの仕事は全部断っています。もちろんエレクトリックなミュージックを蔑視しているわけではないのですが、自分を表現する上で一番親しみを感じるのはやはりアコースティック・ピアノですね。自分の音楽といったものは、アコースティック・ピアノの中から生まれていくのだと思います。

私たちのトリオは、メンバーが完全にお互いを信頼し切っていますし、どんな演奏を始めるのにしても、絶えずゼロから出発するという姿勢が出来ています。ですから軽い打ち合わせはするものの、1曲演奏するのに20分も30分も掛けてプレイするというのは朝飯前なわけですよ。
同じ曲でも毎晩違うんです。どんどんバラして変形させていく。ある意味では即興の原点に帰ったようなトリオです。ですから今回のアルバムにしても、それぞれの曲にメンバーのジャズに対する観点があるのではないかと考えまして、『ビュー・ポイント』というタイトルを付けました。

このピアノ・トリオでは、リズムも一定ではなく、曲によってリズムもスポンティニアスに変わっていきます。
リズムの”パルス”と”スイング”は根本的に違うんじゃないか、と私は思っています。
”スイング”というものは必ずしもテンポが一定でなくてはならない、ということではないのです。

たとえばスコット・ジョップリンなんか聴いていてもテンポが速くなったり遅くなったりしますよね。でも、演奏はもの凄くスイングしているわけですよ。
ですから曲の流れといったものがパルス、そしてそのパルスの上に乗ってスイングを自由自在に作り上げていくのがジャズのおもしろさではないかな、と自分は思いますね。

(以下、ケイ 赤城インタビュー 〜 大学教授篇 に続く)